「漁港夕照」

2017年9月号掲載 水彩31×41

 

 「江ノ電」は家々の生け垣に触れるようにして進む。家並が途切れて、視界に相模湾が広がると、目指す腰越駅も近い。

 駅から細い路地を海へと歩く。漁師の家も多く、路地に海が香る。シラスが上がる戦場のような朝とは一変、夕方の腰越漁港は人影もまばらだった。

 陽を受けた漁船は白く輝き、建物も岸壁も崖もオレンジ色に染まってゆく。装飾も何もない漁港の、光り輝く一瞬だ。船腹の明るさをいや増して、小動の森の深い影が夜を待っていた。